【要旨】
パナソニック(株)は、製造現場の組立作業の自動化を狙いとして、従来は人が行っていた複雑で多彩な作業の自動化に際し、手づたえにより作業手順を簡単に教示でき、自由な空間姿勢が表現できるパラレルリンクロボット[1]を開発しました。今後、当社グループの国内外の工場を中心に展開を図り、高効率生産の実現に取り組んでいきます。
【効果】
セル生産の浸透により、組立工程では人による作業が一般的ですが、作業ばらつきや作業効率などの課題があります。しかしそれをロボットで行うためには、複雑で多彩な作業を自動化する必要があり、ロボットに組立て手順を指示する専門知識が必要でした。ロボットそのものに簡単かつ安全に手づたえで教示することにより、製造現場のオペレーターでも手間をかけずに、作業者のコツを教示することが出来ます。ロボットの使い勝手を飛躍的に高めることで、作業ばらつきを抑え、製造現場の生産性向上・コスト削減に貢献していきます。
【特長】
- 簡単で直感的な手づたえ教示により、誰でも手間無く作業指示が可能
- 6軸協調アーム制御型のパラレルリンクロボットで、6自由度の柔軟姿勢作業が可能
- 簡素な構造で、低コストを実現
【内容】
- 教示時にサーボ[2]とブレーキを共に解除し、アームをフリー状態にすることで、極めて軽量な操作感で安全に手づたえ教示を行うことが可能なダイレクトドライブ駆動方式[3]
- 広可動範囲(φ400mm×150mm)と、柔軟姿勢(各軸周りに±20°)を有しながら、高精度位置再現性(±20μm)、可搬重量1.5kgを実現する6軸同時協調制御技術
- モータ、軸受、アーム、という極めてシンプルな構造に加え、低コスト化を実現する機器構成部品点数の削減
【従来例】
ロボット自体を直接触って動かすことで、教示を行うダイレクト教示[4]は、従来から存在しましたが、その多くは、重いアームを支えて、モータの抵抗を受けながら教示を行うため、繊細で複雑な作業を教示することは、困難でした。また、軽い操作感を得るために、電気的に制御を行い、負荷バランスをキャンセルする方法も提案されていますが、ロボットの暴走など、安全面での懸念がありました。
【特許】
国内3件(出願中を含む)
【特長および内容の詳細説明】
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簡単で直感的な手づたえ教示方式で、ロボットを誰でも手間無く作業指示が可能
ロボットに操作を教示するための、複雑な操作手順やソフトウエアに関する専門知識が不要で、作業者がロボットの先端部を把持して、その動作位置や軌跡を、安全かつ軽快に教示することで、利便性を大きく高めています。
具体的には対象物をつかむハンドが取り付くアーム先端部が、本体の真下にあり、アームやアーム先端部が軽量な構造のため、この部分を把持して、楽に位置教示することが可能です。また、サーボ解除の状態で教示をするため、暴走などの危険性がなく、安全に教示作業を行うことが出来ます。特に、多品種少量生産形態のユーザに対して、極めて簡単に教示ができる仕組みを提案することによって、使用できる用途の拡大が期待できます。 -
6軸協調アーム制御型のパラレルリンクロボットで、6自由度の柔軟姿勢作業が可能
このロボットは、6つのモータを内蔵し、それぞれのモータに、アームが接続されています。これら6組のアームが、1枚の先端プレートに並列に接続する形態から、「パラレルリンク」と呼んでいます。構成は極めて簡素ですが、東北大学と共同開発を行った高度な制御技術により、6つのモータを同時にコントロールし、目的の位置や姿勢を表現しています。作業空間内で、どのような作業にも対応するためには、6自由度(アームを動かすことのできる方向の数)が必要ですが、このロボットは6つのモータで6自由度を表現できるため、自由な姿勢が表現でき、人作業のような複雑な姿勢にも追従します。 -
簡素な構造で、低コストを実現
このロボットは、モータ、軸受、アーム、といった、極めてシンプルなメカ部材で構成されています。また、それらの取付け部材などを含め、部品点数を絞り込むことで、直接材料費と組立工数を低コスト化しています。シンプルな構造によって、故障などのトラブルが生じるリスクも小さくなります。
また、ロボットの本体(寸法概略:幅600mm×高さ700mm×奥行600mm)については、幅をセル生産工程にも導入しやすいサイズ(=600mm程度)に設定し、構造上の特性から、可動範囲が本体幅以内に収まっており、本体幅程度の防護柵で運用することが出来るため、作業者との共存性に優れています。
【用語の説明】
- [1]パラレルリンクロボット
- いわゆる多関節ロボットのように、各関節軸を構成するモータどうしを順に接続する形態を、シリアルリンクと呼び、各関節軸を構成するモータどうしからのアームを並列に接続する形態を、パラレルリンクと呼びます。
パラレルリンクロボットは、先端部が軽量な構造であり、一般に高速動作を得意とします。従来の主用途は、食品や医薬品などのパッケージを高速搬送する用途であり、3軸3自由度のパラレルリンクロボットが主流でした。 - [2]サーボ
- 位置や角度の制御量と目標値を連続して比較し、制御量が目標値に追随するように変化させるフィードバック制御のことです。
- [3]ダイレクトドライブ駆動方式
- 重量物を駆動するためには、モータの駆動力(トルク)を増大するために、複雑な機構を介在させて駆動しますが、この方式ではアーム側を手で動かすのに大きな力が必要となるため、繊細な作業を手づたえ教示することが困難となります。このロボットは、アームを軽快に操作できるよう、駆動源であるモータと作用部であるアームの連結を工夫し、手づたえ教示を実現しています。
- [4]ダイレクト教示
- ダイレクト教示は、ロボットの骨格自体に直接触れ、これを動かすことで、ロボットの動作位置や軌道を教示する方法です。重いアームを支えて、モータの抵抗を受けながら教示を行う必要があります。今回開発したパラレルリンクロボットの手づたえ教示は、パラレルリンク構造によるアームを含めた先端部の重量の軽量化、モータとアームの連結の工夫、モータのサーボ解除により、作業者が思うままにロボットの先端部を動かすだけで、その動作をロボットが記憶し、教示が可能となります。この状態でも、ロボットは、自分自身の位置を、常に監視しており、作業者が動かした位置や動作軌道を読み取っています。この仕組みによって、フレキシブル基板のコネクタ挿入作業など、数十グラムの力加減の作業でも、作業者はその力加減を感じ取りながら、直感的に動作教示することができます。