【要旨】
パナソニック株式会社は、省エネルギー化を実現するパワートランジスタ[1]向けに、直接液浸冷却技術を開発しました。従来、半導体チップの冷却は裏面からのみであったのに対し、本技術は、減圧パッケージ内に半導体チップと液体を封入し、わずかな温度上昇でも液体が沸騰し気化するときの吸熱現象を利用することで、半導体チップ表面の直接冷却を可能にしました。これにより冷却性能が2倍以上に向上し、パワートランジスタの大電力駆動が可能となります。
【効果】
GaNパワートランジスタ[2]等の次世代パワートランジスタは、従来のSi系トランジスタに比べて小型化が可能となりますが、パッケージ内部に熱がこもりやすいといった課題がありました。本技術では、減圧パッケージ内で半導体チップを液体に浸すことで、発熱部である半導体チップ表面の冷却を可能とし、パッケージ内に液体を封入しない場合に比べてパワートランジスタの温度上昇を半分以下に低減できます。これにより、民生機器におけるモータ駆動をはじめ様々な応用分野への展開の可能性が広がりました。
【特長】
- 半導体チップの発熱部は表面に近いところにあるため、減圧パッケージ内に半導体チップと液体を封入してチップ表面が液体に直接浸る構造にすることで、発熱部の直接冷却を可能とし、冷却性能を2倍以上に向上
- 半導体チップ表面の直接冷却により、チップの固定に熱伝導性の高い材料を使用する必要が無くなるため、柔軟性の高い接着剤の使用を可能とし、発熱時のチップと減圧パッケージとの熱膨張率の違いにより発生するストレスを緩和
【従来例】
従来型パッケージでは、パワートランジスタのチップは樹脂で封止されています。パワートランジスタの大電力駆動には、樹脂の低い熱伝導率に起因する冷却性能の不足を解決する必要がありました。
【特許】
国内 143件、外国 91件（出願中含む）
【備考】
本開発の一部は、2010年9月24日に東京大学で開催のSSDM 2010で発表いたしました。またこの成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構（NEDO）の共同研究業務の結果得られたものです。
【特長の詳細説明】
1．半導体チップ表面の直接冷却により、冷却性能を2倍以上に向上
半導体チップ裏面のみを冷却する従来のパッケージ構造に対して、チップ表面を液体で冷却する直接液浸冷却技術は、パッケージ内を減圧にしているので、チップのわずかな温度上昇でチップ付近の液体が沸騰し、気化するときに周囲の熱を吸収します。これにより、チップ表面が強力に冷却されます。また、封入する液体にエタノールを使用することにより、半導体チップへの腐食性を低減することができます。
2．柔軟性の高い接着剤で半導体チップを固定し、発熱時のチップのストレスを緩和
パッケージ内にチップを固定する際に、従来は熱伝導率が高いハンダを用いていました。しかし、ハンダは硬くて変形しにくい性質があるため、チップの発熱によりパッケージが膨張した場合には、チップに引っ張り力などのストレスが発生します。今回、接着剤として、ハンダより柔らかい銀ペーストを用いることにより、チップに発生するストレスを低減しました。直接液浸冷却技術では、チップ表面が強力に冷却されているので、チップの固定に熱伝導率の低い材料の選択が可能となります。
【用語の説明】
- [1] パワートランジスタ
- 大電力を制御するためのオン状態（導通状態）と、オフ状態（遮断状態）を実現するスイッチとしての働きをするトランジスタです。
- [2] GaNパワートランジスタ
- ガリウム（Ga）と窒素（N）の化合物で、電子の移動速度が大きいため、大電力駆動ができます。
【図】従来のパッケージ構造と今回開発した直接液浸冷却用の減圧パッケージの構造
