【要旨】
パナソニック株式会社は、半導体と強誘電体[1]の界面伝導[2]を利用した、新しい構造のメモリスタ[3]を開発しました。メモリスタは、流れた電流量によって抵抗値が変わり、その状態を保持する機能を持ちます。今回、世界で初めて、強誘電体の性質を用いて半導体の抵抗値を制御し、これまで実現されていなかった10万倍という大きな抵抗値変化を得ました。これにより、一つの素子で多くの抵抗値を記憶することが可能となりました。さらに、トランジスタとの一体化に成功し、高機能・高集積化の可能性も広がりました。
【効果】
従来、多くの抵抗値を記憶する機能を実現するには、複雑な回路が必要でした。本開発の成果を用いることで、この機能を一つの素子で構成することができます。将来、脳型の学習機能[4]を有する素子への展開が期待できます。
【特長】
今回開発した素子は、以下の特長を有しています。
- 最大抵抗/最小抵抗の比が10万倍で、一つの素子で多くの抵抗値を記憶
- メモリスタ機能とトランジスタ機能を一つの素子で実現
【内容】
本開発は、以下の新規技術により実現しました。
- 強誘電体上に原子配列の乱れなく半導体を成長させる結晶成長技術[5]
- メモリスタ上に電極を形成するだけで、メモリスタとトランジスタの二つの機能を一つの素子で実現した高機能化技術
【従来例】
これまでのメモリスタは、酸化チタンの抵抗変化を利用したものが提案されていましたが、抵抗値の変化が数百倍程度と小さく、脳型の学習機能を有する素子へ展開するには、さらに大きな抵抗値変化が必要でした。
【特許】
国内:40件 海外:14件(出願中を含む)
【備考】
本開発の一部は、Device Research Conference(米国・インディアナ州、6/21−23)で発表いたしました。
【特長の詳細説明】
1. 最大抵抗/最小抵抗の比が10万倍で、一つの素子で多くの抵抗値を記憶
半導体と強誘電体との界面では、半導体の抵抗は、界面にある電子の密度に大きく依存します。強誘電体は半導体界面の電子の密度を大きく変化させるとともに安定保持できるので、これまで得られなかった10万倍の大きな抵抗値変化が実現できました。
2.メモリスタ機能とトランジスタ機能を一つの素子で実現
通常、目的とするメモリスタの抵抗値を読み出すには、トランジスタで選択する必要があります。今回開発した素子は、メモリスタの上にさらに電極を形成することで、トランジスタの機能を追加し一体構造を実現しました。これにより占有面積が増えることなくメモリスタ機能とトランジスタ機能の両方を実現することができました。
【内容の詳細説明】
1.強誘電体上に原子配列の乱れなく半導体を成長させる結晶成長技術
基板材料から電極材料、強誘電体材料、半導体材料まで、隣り合う原子の距離が等しい酸化物材料を選択し、結晶面を揃えて成長させることにより、原子配列の乱れの無い良好な半導体と強誘電体の界面を実現しました。
2.メモリスタ上に電極を形成するだけで、メモリスタとトランジスタの二つの機能を一つの素子で実現した高機能化技術
本開発の素子は、半導体の強誘電体側の界面はメモリスタとして機能し、半導体の上部電極側の界面はトランジスタとして機能します。このように半導体の二つの界面の機能の独立性を保つ材料設計により、高機能化を実現しました。
【用語の説明】
- [1]強誘電体
- 強誘電体に電圧を加えると、一方の表面にプラス電荷が、もう一方の表面にマイナス電荷が生じ、電圧をゼロにしても電荷が残ります。また電圧の向きを逆にすると、電荷のプラスとマイナスが逆になります。さらに電圧の大きさで、生じる電荷の大きさも変化させることができます。
- [2]界面伝導
- 強誘電体上に原子配列の乱れなく半導体を成長させると、強誘電体の性質を用いて半導体界面に高密度の電子を発生させることができ、その電子は界面を自由に動くことができます。この状態で、界面方向に電圧をかけると、これらの電子は界面に沿って流れます。
- [3]メモリスタ
- 抵抗、コンデンサ、インダクタに続く「第4の受動素子」として、1970年代にその存在が理論的に予言されました。流れた電流量によって抵抗値が変わり、その状態を保持する機能を持ちます。この機能により、複雑な従来の回路を簡単な回路に置換えでき、脳型の学習機能を有する素子などへの展開が期待されています。
- [4]脳型の学習機能
- 脳型の学習法は、望んだ出力信号が得られるまで、入力信号の重み付けを変化させる学習法です。重み付けは入力信号の伝わりやすさ、すなわち電流の流れやすさで表現できます。電流の流れやすさは、メモリスタの抵抗値で置き換えることができます。今回開発した素子は抵抗値の変化が大きいので、脳型の学習に適しています。
- [5]結晶成長技術
- 隣り合う原子の距離が等しい材料を選択し、基板の結晶面に揃えて成長させる技術です。この技術により原子配列の乱れの無い良好な半導体と強誘電体の界面を実現できます。
【図】今回開発したメモリスタの構造図と界面拡大写真
- [技術トピックス]強誘電体を用いた新構造のメモリスタを開発
- http://panasonic.co.jp/company/r-and-d/technology/topics/memristor/