【要旨】
パナソニック株式会社は、直接メタノール型燃料電池[1]システムの開発を進め、体積当たりの出力を従来試作品[2]の2倍に高めた平均出力が20Wの燃料電池システムを開発しました。この技術を応用し100Wクラスの可搬型発電機を開発し、2011年度に実証実験を開始する予定です。
【背景】
環境問題への関心の高まりから、温室効果ガスの排出が少なく、大気汚染のないエネルギー源が求められ、さらに化石燃料の枯渇問題もあり代替するエネルギーの開発が必須となってきています。直接メタノール型燃料電池は、大気汚染ガスの排出がなく、内燃機関を利用した発電装置に比べて、二酸化炭素の排出量も大幅に低減することができる発電装置として実用化が期待されています。
【内容】
当社は、2008年に締結部分の構造を見直すことにより小型化したスタック[3]と、燃料をポンプ内部で適正な燃料濃度に直接混合する燃料ポンプなど、小型・省電力のBOP[4]を開発しました。今回、このスタックの小型化技術を進化させ、従来試作品と同じ体積で平均出力が2倍となる20Wの燃料電池を開発しました。
これにより、比較的消費電力の高い高機能ノートパソコンの駆動にも対応できます。また、従来課題とされていた、電極劣化による出力低下に対し高濃度燃料利用電極技術[5]により耐久性を大幅に向上させ5000時間(1日8時間 間欠運転の場合)の運転を可能にしました。
【実用性】
当社は、高出力化に取り組み、今回確立した小型化・高耐久の技術をもとに、高出力化に取り組んでまいります。エンジン発電機に比べて圧倒的にコンパクトな平均出力100Wの可搬型発電機を開発し、2011年度から実証実験を開始します。
また、この発電機と当社の高容量リチウムイオン電池モジュールを組み合わせた「創エネ・蓄エネ」を一体化した屋外電源の実用化を目指します。
【関連特許】
国内:139件、海外:69件(出願中を含む)
【ホームページ】
【開発品の概要】
用途 | モバイル機器(今回開発品) | ポータブル発電機(開発予定品) |
---|---|---|
平均出力 | 20W | 100W |
容積 | 約360cc | 約2L(燃料を除く) |
質量 | 約350g (燃料を除く) |
約2kg (燃料を除く) |
使用燃料 | メタノール |
【用語の詳細説明】
- [1]直接メタノール型燃料電池:
- 燃料であるメタノール水溶液を、直接発電部に供給する燃料電池。以下の反応式のように、燃料極でメタノールと水から水素イオンと二酸化炭素を生成する。空気極では、燃料極から移動してきた水素イオンが酸素と反応して電気エネルギーと水を生成する。燃料極;CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e-
空気極;3/2O2 + 6H+ + 6e- → 3H2O
全体;CH3OH + 3/2O2 → CO2 + 2H2O - [2] 当社の従来試作品:
- 2008年開催の水素エネルギー先端技術展に、参考出展した試作品。
- [3] スタック:
- 燃料電池の発電部分。MEA(Membrane Electrode Assembly:燃料極と電解質膜と空気極とからなる複合体)を、複数個直列接続している。
- [4] BOP(Balance Of Plantの略):
- 燃料や空気を供給するポンプや発電をコントロールする電気回路などの発電補助機器類の総称。
- [5] 高濃度燃料利用電極技術:
- 燃料の透過量を調整する撥水性多孔質層などにより、燃料が無駄に消費されるクロスオーバー現象を抑制し、高濃度の燃料を電極へ供給することを可能にする技術。