【要旨】
パナソニック株式会社は、生産活動におけるCO2排出量削減を実現するための独自の省エネシミュレーション技術を確立しました。これは、エネルギー消費の高い生産設備や原動設備を用いる工程を詳細に調査し、性能・品質の維持を精密な実験で実証した上で、設備の効率的な運転条件を正確に予測する技術です。
具体的には、(1)乾燥・焼成炉設備の最適化、(2)クリーンルームに代表される空調設備の最適化、(3)高圧エアの最適化、を実現し独自の省エネソリューションを抽出するシミュレータ群として開発しました。
当社は、「モノづくりにおけるCO2削減の取り組みは生産性向上に直結する」という考え方で、製造現場でのCO2削減の取り組みを行ってきました。今回の技術開発は、原動設備の変更に留まらず、生産プロセスの改革という新たな取り組みであり、CO2削減と生産性向上の両立を実現するものです。
今後、全社への横断的な工場省エネ/CO2削減活動と併せ、取り組みを展開してまいります。
【内容】
(1)乾燥工程の高速処理条件を最適化
従来、乾燥工程は技術者の経験則で運用制御されており、生産条件の変更が品質に与える影響を予測することが困難でした。
そこで、独自のシミュレーション技術を導入し、炉の外からではわからない内部の温度・湿度の変化や気流の予測から乾燥状態を推定し、最終の乾燥品質特性を予測することのできるシミュレータを開発しました。これにより、実際の炉における最適な運転条件を決定することに成功しました。
(2)クリーンルームの空調機器の運転条件の最適化
工場のクリーンルームの維持・管理には、非常に多くのエネルギーが必要ですが、クリーンルーム内の温度・湿度の変化や空気中のダストなどの環境要因が製品の品質に大きく影響するため、安易に空調条件を変更することができませんでした。また、従来より空調シミュレーションが行われていましたが、温度解析精度が±2℃程度と悪かったために、±0.5℃以下という高い温度解析精度が要求される半導体などのクリーンルームの温度管理下では、正確な省エネ性能評価に使うことができませんでした。
今回新たに解析境界条件を別途付与することで、クリーンルームや外調機などの空調設備を含む工場全体の気流・温度・湿度・圧力をほぼ現実と同等の精度で予測することが可能になりました。この高精度空調シミュレーション技術の開発により、クリーンルームにおける種々の省エネアイデアの良否が正確に判定でき、省エネ効果の最大化を図ることができます。
(3)工場エアの供給設計の最適化
通常、工場では複数台のコンプレッサーから繋がる複雑な配管経路によって、様々な工程の設備に高圧のエアを継続的に供給しています。その供給配管の配管径やレイアウトを、工場全体でモデル化し、圧力損失などの供給ロスの少ない最適な配管レイアウトを提案することのできる配管最適設計シミュレータを開発しました。
これを用いて工場の高圧エア配管網や運転条件を見直すことで、コンプレッサーの稼動を抑制し、工場の省エネ/CO2削減が可能になりました。
【成果と今後の展開】
エナジー社和歌山工場は、モバイル機器等のリチウムイオン二次電池の生産を担うエナジー事業の重要拠点です。同工場では、従業員の全員参加による省エネ活動に加えて、乾燥工程の高速処理条件の最適化などにより、トータルの省エネ/CO2削減に取り組みました。その結果、2008年度は生産高が前年比約2倍に急増する中、CO2排出量を1.1倍に抑制し、生産高当たりのCO2排出原単位は前年比46%削減と大きな削減効果を生み出しました。
今後、このシミュレーション技術は現在大阪府に建設中のエナジー社住之江工場など先進省エネ工場をはじめ、多くの工場の炉・空調・クリーンルームなどの設備に活用を拡大し、当社グループの生産活動におけるCO2排出量削減を加速してまいります。